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山内美代子著『藤が丘から』墨彩画と俳句

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   ワンタッチ日傘開きぬ山の駅 

 躊躇いもなく素早く開くワンタッチ傘は、布の張りつめる音も、ことさら山の駅では響いただろう。ただそれだけの風景であるが、これからドラマが始まりそうな印象的なシーンである。
私には、冒頭の句は山内美代子さんそのものに思えるのである。彼女はまるで屈折など持たないかのごとく真正面から物事を見詰め、人に向き合う質なのである。その率直さに好感を持つのは、私ひとりではないだろう。

   初花の混み合ふところうすみどり

 もちろん、ワンタッチ日傘とは違う深遠な句も作れる作家である。当時、所属していた「貂」の指導者川崎展宏氏は、良い作品が出来ると自分が作ったかのように喜び騒ぐのだった。この句のときも、投稿されてきた句に興奮していた。自分の鑑賞を作者である山内さんに確かめ、さらにわたしにも電話してきたのである。
 山内美代子さんと私は「鹿火屋」に入会したのが同時期で、原裕先生を囲む吟行の旅も一緒だった。その後、『菜の花は移植できるか』の著書も持つ佐藤和夫氏から「貂」への入会を促されたときも、二人で参加した。そうして、ほぼ四十年ほどの月日を過ごしてきた。
 昭和四年生れの彼女は今年八五歳。一度はいまさら本など作っても、と思ったこともあったようだ。私もそれもそうだな、とあえて勧めることもしなかった。ところが五月に鳩居堂で墨彩画の展覧会を開催することを思い立った途端に、本も作りたくなったようだ。行動を起こすと、細胞が活気づいて志向も行動的になるのだろう。その活気が山内美代子さんの魂と繋がって、この一冊に纏まった。                           

                         岩淵喜代子

                     平成二七年七月七日

『藤が丘』抄より
ふらここや空の亀裂に足の入る       
水の揺れ日の揺れ風の金魚売         
羽抜鶏はるかな海へ首伸ばす
根元からたわみて風の萩の花
木も草も石も影もつ初日かな
葉牡丹の渦盛りあがる日差かな
陽炎や道いつぱいに電車くる
追伸の文字は小さく夕時雨
鯉幟丸めて胸に一抱へ
毛糸帽小脇にはさみ礼拝す
濃墨を垂らし込み秋立にけり
貧相となりぬ真昼の雪達磨
あくぬきの水を替へては春惜しむ
草ぐさの影を濃くする蛍の火
折り合ひをつけて暮らして合歓の花
深吉野の露や手を置く丸木橋
万緑の中や音無き音満ちて
はにかんでゐるや酸漿揉みながら
夕桜筆ふつくらと乾きたる
花すすき入江とろりと夕茜
トンネルのやうな路地抜け初夏の海
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by owl1023 | 2016-03-04 14:14 | 山内美代子著書


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